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最新労働判例の紹介(2)


解雇無効確認等請求事件(東芝[うつ病・解雇]事件)

平成26年3月24日、最高裁第二小法廷判決

[ ポイント ]
 労働者が過重な業務によってうつ病を発症し増悪させた場合において、使用者の安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償の額を定めるに当たり、当該労働者が自らの精神的健康に関する情報を申告しなかったことをもって過失相殺をすることができないとされた判例

事案の概要  

  1. 上告人の女性(X)は、平成2年3月に大学の理工学部を卒業し、同年4月に被上告人(Y社)に入社し、平成10年1月にY社の液晶ディスプレイ等を製造する工場に異動となり技術部門を担当する部門に配属された。

2. Xは、工場において平成12年11月頃から立ち上げられたプロジェクトの一つの工程においてプロジェクトリーダーになり、そのため休日に出勤することも多く、帰宅が午後11時を過ぎることも増えた。同年12月に神経科の医院(本件医院)を受診し、頭痛、不眠、車酔いの感覚等を訴え、神経症と診断された。

3. Xは、プロジェクトを立ち上げ後、平成13年4月までの間に平成12年12月に75時間06分、1月に64時間59分、2月に64時間32分、3月に84時間21分、4月に60時間33分の時間外労働を行っていた。Xは同年3月から4月にかけて不眠、不安感、抑うつ気分等もあり、ふらふらと疲れているという自覚を持っていたが、そのことを職場の同僚等に言ったことはなかった。

4. 同年5月、Xのプロジェクトの技術担当者が1名減員されるとともに、Xに対して従前の業務に加え異種製品の開発業務及び技術支障問題の対策業務も担当するよう命じられた。その後Xは、同月23日有給休暇を取得したが激しい頭痛に見舞われ、その週の全日を欠勤した。

5. Xは、8月にY社のメンタルヘルス相談を受診し、さらに本件医院からの診断書を提出して9月1か月間欠勤したが、その後も毎月診断書を提出して欠勤を続けた。Y社は、Xの勤期間が就業規則の定める期間を超えた平成15年1月10日、Xに対し休職を発令し、その後もXが職場復帰をしなかったため、平成16年8月6日、Xに対し休職期間の満了を理由とする解雇予告通知をした上、同年9月9日付けで解雇した。

6. Xは、平成16年9月8日、本件うつ病について、所轄労働基準監督署長に対し労災保険法に基づき休業補償給付等の支給を求める請求をしたが、同18年1月23日これらを支給しない旨の処分を受けたため、同19年7月19日、不支給処分の取り消しを求める訴えを東京地裁に提起し、同裁判所は平成21年5月18日、本件うつ病には業務起因性が認められるとして、不支給処分を取り消す旨の判決をし、同判決は控訴されずに確定した。

なお、上記の支給に係る請求の審査手続において作成された平成17年12月5日付け埼玉労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見書において、本件うつ病の発症時期は同13年4月頃とされている。

7. Xは、平成13年9月以降、自らを被保険者とする健康保険組合から・・傷病手当金の支給を受けていた。Xは、上記Δ糧酬茲粒猟蠍紂∧神14年9月8日以後の休業補償給付等の支給を受け、同21年12月24日に同月11日までの休業補償給付等の支給も受けたため、本件傷病手当金等につき、その一部を健康保険組合に返還したが、同14年9月7日以前の休業に対応する367万8848円を現在も保有している(以下、これを「X保有分」という。)。

最高裁判決の要旨  

  1. 原審(高裁)は、上記事実関係等の下において、前記解雇は無効であるとし、過重な業務によって平成13年4月頃に発症し増悪した本件うつ病につきY社はXに対し安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償責任を負うとした上で、その損害賠償の額を定めるに当たり、
    要旨次のゝ擇哭△里箸り判断して、過失相殺に関する民法418条又は722条2項の規定の適用ないし類推適用により損害額の2割を減額するとともに、休業損害に係る損害賠償請求につき、要旨次ののとおり判断して、その認容すべき額が選択的併合の関係にある未払賃金請求の認容すべき額を下回るからこれを棄却すべきものであるとした。

Xが、神経科の医院への通院、その診断に係る病名、神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかったことは、Y社においてXのうつ病の発症を回避したり発症後の増悪を防止する措置を執る機会を失わせる一因となったものであるから、Xの損害賠償請求については過失相殺をするのが相当である。

◆。悗、入社後慢性的に生理痛を抱え、・・・慢性頭痛及び神経症と診断されて抑うつや睡眠障害に適応のある薬剤の処方を受けており、・・・9年を超えてなお寛解に至らないことを併せ考慮すれば・・・Xの損害賠償請求についてはいわゆる素因減額をするのが相当である。

 本件傷病手当金等のX保有分については、傷病手当金は療養のため就業できない場合に支給するものとされていること等に照らせば、Xに対する損害賠償の額から控除することが相当であり、いまだ支給決定がされていない期間の休業補償給付についても、これと同様に上記の額から控除することが相当である。

2. しかしながら、原審の上記,覆い鍬の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

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  • Xは、本件うつ病の発症以前の数か月において、上記事案の概要3のとおりの時間外労働を行っており、しばしば休日や深夜の勤務を余儀なくされていたところ、
    その間、当時世界最大サイズの液晶画面の製造ラインを短期間で立ち上げることを内容とする本件プロジェクトの一工程において初めてプロジェクトのリーダーになるという相応の精神的負荷を伴う職責を担う中で、業務の期限や日程を更に短縮されて業務の日程やないようにつき上司から厳しい督促や指示を受ける一方で助言や援助を受けられず、上記工程の担当者を理由の説明なく減員された上、過去に経験のない異種製品の開発業務や技術支障問題の対策業務を新た命ぜられるなどして負担を大幅に加重されたものであって、これらの一連の経緯や状況等に鑑みると、Xの業務の負担は相当過重なものであったといえる。
  • 上記の業務の過程において、XがY社に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は、・・・労働者にとって自己のプライバシーに属する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。
    使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても・・・安全配慮義務を負っているところ、上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には・・・必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。
    ・・・このように、・・過重な業務が続く中で、は、・・体調が不良であることをY社に伝えて相当の日数の欠勤を繰り返し、業務の軽減の申出をするなどしていたものであるから、Y社としては・・・その状態の悪化を防ぐためにXの業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であったというべきである。これらの諸次条に鑑みると・・・本件うつ病が発症し増悪したことについて、XがY社に対して上記の情報を申告しなかったことを重視するのは相当でなく、これをXの責めに帰すべきものということはできない。
  • 以上によれば、Y社が安全配慮義務違反等に基づく損害賠償としてXに対し賠償すべき額を定めるに当たっては、Xが上記の情報をY社に申告しなかったことをもって、・・・過失相殺をすることはできないというべきである。

△砲弔い  

  • 本件うつ病は上記のように過重な業務によって発症し増悪したものであるところ、・・・原審が摘示する・・各事情をもってしてもなお、Xについて、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるぜい弱性などの特性等を有していたことをうかがわせるに足りる事情があるということはできない。
    以上によれば、Y社の安全配慮義務違反等を理由とするXに対する損害賠償の額を定めるに当たり過失相殺に関する民法418条又は722条2項の規定の適用ないし類推適用によりその額を減額した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものというべきである。

について  

  • これに加え、原審は、安全配慮義務違反等に基づく損害賠償請求のうち休業損害に係る請求について、その損害賠償の額から本件傷病手当金等のX保有分を控除しているが、その損害賠償金は、Y社における過重な業務によって発症し増悪した本件うつ病に起因する業務上の疾病による損害の賠償として支払われるべきものであるところ、
    本件傷病手当金等は、業務外の事由による疾病等に関する保険給付として支給されるものであるから、上記のX保有分は、不当利得として健康保険組合に返還されるべきものであって、これを上記損害賠償の額から控除することはできないというべきである。

    また、原審は・・上記損害賠償の額からいまだ支給決定を受けていない休業補償給付の額を控除しているが、いまだ現実の支給がされていない以上、これを控除することはできない。

    これらによれば、・・・損害賠償の額を定めるに当たり、上記の各金員の額を控除した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものというべきであると判事し、原審の判決中損害賠償に関するXの敗訴部分は破棄するとともに、見舞金支払請求に関するX敗訴部分についても破棄し、本件を原審に差し戻すとの判決となりました。

実務上の留意点  

  1. 近年、長時間労働、休日・深夜労働等に加え、労働者個人の適正能力の限界を無視した精神的負荷の増大等によりうつ病等を発症し、体調を崩す事例が多くなっている。しかも、当該労働者にとって自己のプライバシーに属する情報であり、かつ、それを知られることにより人事考課等に影響することを恐れて極力秘匿して就業を続けようとする。
    これに対して、会社にその情報を報告しなかったことをもって労働者の責めに帰すべき理由とはできず、損害賠償の額を過失相殺することは許されないとの判事は、大変に重要な視点といえます。つまり、会社としては、従業員が健康ではつらつと職務に励めるように常に留意すべき安全配慮義務を負っているため、日常の業務への取り
    組みの状況から業務の軽減等の措置を執るべき必要があることを示しています。

2. 損害賠償の額から傷病手当金等を控除していることについても、本件の損害賠償はうつ病という業務上の疾病に対するものであり、控除しようとしている傷病手当金等は業務外の事由に基づく疾病に基づくものであってこれを損害賠償の額から控除することはできず、健康保険組合に返還されるべきものである。
また、同様にいまだ支給がされてない休業補償給付を控除することもできないと示し、原審の判断には法令適用の解釈を誤った違法があり、原審でのXの敗訴部分を差し戻す判決としたものです。

3.今、職場でうつ病を発症させてしまう人が大変多いと言われています。
なぜ増えているのか。端的に言えばストレスが増え、溜め込んでしまうからです。
なぜ、ストレスが増えるようになったの
か。それは雇用環境の激変が要因と考えられます。バブル期のように、右肩上がりに業績が伸びていた時期は、とにかく無難に仕事をこなしていれば、ある程度は出世ができたし、上司からの叱責も、その後の「飲ミュニケーション」でホローされていました。
ところが現在は、パワハラ、セクハラ、コンプライアンス、セキュリティ、プライバシーなど管理ばかりを厳しく言われ続け、仕事とプライベ−トが切り離され、かつ、1人に一台ずつパソコンが設置され、画面とニラメッコの孤独な業務が中心になってきています。

4. かつての職場は「GNN」が溢れていたといいます。つまり「義理・人情・浪花節」のことで、職場は楽しく、人情味があり、希望があり、泣き笑いなどがありました。上司に厳しく叱られても、その夜に一献傾けながら、ホローしてくれ、その温かさに新たな意欲が沸いたものです。
欧米とは異なり、我が国には独特のDNAがあったのではないでしょうか。結局、上司との、あるいは同僚間のコミュニケーション不足が職場うつの増加の大きな要因だと考えられます。

5. かつては、家族ともども会社として運動会を行い交流を図った会社も多いと聞きます。そこには、普段見られない社長をはじめ、役員、上司、同僚の失敗や恥さらしの部分もあり、また妻や子どもにも普段とは違う父親の姿に親近感も持ったものです。その意味で、最近、運動会を復活している会社もあるようです。

ともあれ、人生の活動期の一番大事な時期を会社という組織体の中で過ごすことから、会社発展の運命共同体として共に助け合い、良い思い出の積み重ねられる職場であっていただきたいと念願するものです。(了)  

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