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法改正情報28


過労死等防止対策推進法が成立

平成26年6月20日公布、本年11月までに施行予定

法律制定の背景と法の趣旨  

  • 働き過ぎが原因で亡くなることを防ぐべき対策を国の責務とする「過労死等防止対策推進法」が6月20日成立した。
    1988年(昭和63年)4月に大阪で初めての電話相談「過労死110番」が開設され、同年6月には札幌など全国7か所で「過労死110番」が設置され、全国的に過労死に対する関心が高まってきていた。
    そのため、同年10月には過労死弁護団全国連絡会議が結成され、さらに同年11月には米国のシカゴトリビューン紙が日本の過労死問題を1面トップで報道するに及んで、何らかの法的措置を求める声が全国
    に広がっていった。
  • しかし、なかなか法律制定まで至らずに紆余曲折を経てきたが、本年、超党派の議員立法で通常国会に提出され、6月20日に成立した。
    この法律は、働き過ぎが原因で亡くなることを防ぐ対策を国の責務とすることとしており、長年、社会問題になってきた過労死や過労自殺を防ぐことを理念とした初の法律といえます。
  • さらに、この法律には規制や罰則を定めるものではないが、わが国で常態化している過重労働の改善にもつながると期待されています。なお、この法律の施行期日については、勤労感謝の日がある11月を「過労死等防止啓発月間」(第5条)と定めており、今年から当該月間を実施できるよう同月までの施行で調整するとし
    ています。

法律の内容  

この法律の目的(第1条)  

  • この法律は、近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とする、と謳っています。
  • 過労死等に関する実態が必ずしも十分に把握されていない現状を踏まえ、この法律において国の責務とした「調査研究等」を行って過労死等に関する実態を明らかにし、その成果を過労死等の効果的な防止
    のための取組に生かすことができるようにすることを基本理念としています(第3条)。

過労死等の定義(第2条)  

  • 過労死等とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若し
    くは精神障害をいう、としています。

国(地方公共団体)が講じるべき対策  

  • 11月を「過労死等防止啓発月間」とし、国民の間に広く過労死等を防止することの重要性について自覚を促し、これに対する関心と理解を深めるために実施し、国及び地方公共団体は月間の趣旨にふさわしい事業が実施されるように努めること。(第5条)
  • 政府は、毎年、国会に、我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する年次報告書を提出すること。(第6条)
  • 政府は、過労死等の防止のための対策に関する大綱(以下、単に「大綱」という。)を策定するとともに、厚生労働大臣は当該大綱案について閣議の決定を求めること。また、そのために関係行政機関の長と協議するとともに、過労死等防止対策推進協議会(後記)の意見を聴くこと。(第7条)
  • 上記の大綱を策定したときは、遅滞なく、国会に報告するとともに、インターネットの利用ほか適切な方法により公表すること。(第7条)
  • 過労死等に関する実態調査や効果的な防止に関する研究、及び過労死等に関する情報の収集、整理分析若しくは提供を行うこと。
    また、これらの調査研究の対象として、業務において過重な負荷又は強い心理的負荷を受けたことに関連する死亡又は傷病について、事業を営む個人や法人の役員等も含め、広く当該過労死等に関する対象とすること。(第8条)
  • 国及び地方公共団体は、過労死等のおそれがある者及びその親族等が過労死等に関して相談できる体制を整備するとともに、産業医等の相談に応じる者に対する研修の機会を確保すること。(第10条)
  • 国及び地方公共団体は、民間団体が行う過労死等の防止に関する活動を支援すること。(第11条)
  • 厚生労働省に遺族、労働者、及び使用者を代表する者、並びに専門的知識を有する者(いずれも厚生労働大臣が任命)により構成される「過労死等防止対策推進協議会」を設置すること。(第12条、第13条)
  • 以上が法律の内容ですが、ほとんどが国及び地方公共団体が行う責務について規定されており、具体的には、「調査・研究」に重点を置いた条文となっています。
    つまり、まず現状の過労死の実態及び過重労働に伴う脳・心臓疾患、精神疾患、これらに伴う自殺等について、あらゆる角度から調査・研究並びにその情報収集を行うことを規定した法律といえます。
  • したがって、過労死等に最も強い影響を与える長時間労働、過重労働等の「労働時間の上限規制」については、この法律には入っていません。
    与えて言えば、「これからどうなるかが大事」だということが分かります。しかし、奪って言えば、過労死等に最も直接的な要因となる労働時間の上限規制について規定されていないこの法律は、画竜点睛を欠くものと思われてなりません。
    25年の歳月を経てやっと出来た法律としては物足りなさを感じてしまいます。同法第14条には、政府が過労死等に関する調査研究を進めその結果を踏まえ、必要があると認めるときは過労死等の防止のために必要な法制上の措置を執ることと定められていますので、今後の法改正を通じて過労死等の減少・撲滅に向けて舵をとるものと期待したいと思います。
  • 6月24日に閣議決定した「『日本再興戦略』改訂2014(成長戦略)にある「働き方改革」に次の点が示されており、新たな労働時間制度の創設の中で、当然、この過労死等防止対策推進法との整合性を踏まえて検討されるのではないでしょうか。
    なお、今後労働政策審議会で具体的な内容を審議し、明年の通常国会に法案提出を予定しています。

働き方改革

  • 長時間労働が是正されるよう、労働基準監督署による監督指導の徹底
  • フレックスタイム制の見直し(子育てや介護等の事情を抱える働き手のニーズを踏まえ、柔軟でメリハリのある働き方を一層可能にするため、月をまたいだ弾力的な労働時間の配分を可能とする清算期間の延長等)
  • 裁量労働制の対象範囲や手続の見直し
  • 一定の年収要件(例えば少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象とした、時間ではなく成果で評価される「新たな労働時間制度」の創設
  • 職務等を限定した多用な正社員の普及・拡大に向け、1)労働契約の締結・変更時の労働条件の明示、2)正社員との相互転換、3)均衡処遇について、労働契約法の解釈を周知→2014年内に実施
  • 「雇用管理上の留意点(導入モデル)」を公表 → 2014年7月

「働きすぎ」の基準を変えるプロジェクト・労政審  

  • 一般的に、我が国では「これ以上働いてはいけない」という基準はありません。
    ただし、厚生労働大臣告示として一定期間ごとの延長時間の限度基準が定められていますが、これも労使協定により「特別条項付の36協定届」を所轄労働基準監督署に届け出れば、限度時間を超えて働くことが可能となり、その場合の限度基準はありません。つまり青天井で働くことが可能です。
  • この中で、唯一の「働きすぎ」の基準と言えるのが、厚生労働省が定めた労災認定に係る、いわゆる「過労死ライン」というべきものです。
    つまり、「これくらい長時間働いていた人が脳や心臓の疾患で倒れたら「働きすぎ」によるものと認める」という基準です。
    具体的には、突発的に倒れる直前の月に100時間超の残業をしていたか、又は倒れる2か月前から6か月前の期間で、月平均80時間超
    の残業をしていたりすれば、「過労死ライン」基準で「働きすぎ」だと言えます。(「働きすぎ」によるうつ病発症などのように過労のために精神障害に至った場合は、別の評価基準が設けられています。)
  • 上記枠内の[働き方改革]の中の時間ではなく成果で評価される「新たな労働時間制度」の創設に向けて検討されていくものと思います。
    現在、議論の中で対象者として挙げられているのは、(イ)
    職務内容と達成目標が明確で一定の能力と経験を有する者、(ロ)業務目標達成に向けて、業務遂行方法、労働時間・健康管理等について裁量度が高く、自立的に働く者とした上で、具体的な対象者を
    (a)一定の責任ある業務・職責を有するリーダー、
    (b)プロジェクト責任者等として全社事業計画策定リーダー、
    (c)新商品企画・開発、ブランド戦略等の担当リーダー、
    (d)ファンドマネージャー、
    (e)IT・金融等ビジネス関連コンサルタントなどとしています。
  • また、年収要件として「1000万円以上」としていますが、この該当者はおおむね労働者の4%程度といわれており、問題は、(案2)として「労働時間上限要件型」について具体的に、どの程度まで範囲
    を広げるのかが、今後の課題と言えます。
    民間議員は、専門性が高いホワイトカラーは労働時間ではなく、仕事の成果で報酬を決めるべきだとし、新制度を幅広い層に適用すれば、子育てや介護の主な担い手となる女性らが時間や場所の制約なく働けると訴えていました。
    これに対し、厚生労働省はフレックスタイム制の拡大などで対応すべきだとしていますが、2015年の通常国会へ向けて、推移を見守っていく必要があります。

代表者の声  

全国労働組合総連合・事務局長 小田川 義和氏  

  • 過労死を法律で明確に定義し、防止策の実施を国の責務としたことの意義は大きく、評価できる。
    一方で過労死をなくすための事業主の責務が明記されなかったことは3年後の法改正に向けた検討課題と指摘したい。
    全労連は、国が法の趣旨に則り過労死まん延の原因である長時間・過密労働の規制、労働者を使い捨てる『ブラック企業』の根絶など法の実効性を高める諸施策を進めることを要求する。とりわけ、安倍政権と財界がたくらむ『残業代ゼロ』『過労死促進』の労働時間制度の見直しは長時間労働や過重労働防止に逆行するものであり、直ちに断念すべきである。
    過労死・過労自死のない社会、安全で健康に働ける職場をつくることは、国民誰しもの願いである。全労連はひきつづき国民の願い実現のために奮闘する。

過労死防止基本法案実行委員会事務局長 岩城 穰弁護士  

  • 法律の最大の特徴「長時間労働などに規則や罰則を設けるのではなく、過労死や過労自殺を『社会の損失』ととらえ、国の責任で防止対策を進めるという理念を明確にした点です。
    個人の問題ではなく、今後は社会の問題として、言い換えれば国家目標として、防止に努めることになります。対策としては、地方公共団体と事業主の協力義務も設けられました。」
  • 国が取るべき防止対策「まず必要なのが実態を明らかにする調査研究です。労災申請している人は氷山の一角で、どれだけの人が過労死しているのか、どういう状況で発生しているのか、過労死した人の年齢など全容が明らかになっていません。
    そのため、過労死とされなくても呼吸器、消化器疾患や過労運転による事故、労働者以外の自営業者や役員らを含め幅広く調査を行うことになります。
    例えば、長時間労働が過労死の原因となり、必要性が認められる場合は、労働基準法の上限規制を設けるなどの法改正を行うことが可能です。」
  • 国が働いた時間ではなく成果に応じて賃金が決まる制度の導入を目指していることについて「幅広い労働者に広げられた場合、成果をあげるために長時間労働をせざるを得ない可能性があり、過労死を招きかねません。しかし過労死防止法は過重労働をさせないことを主眼に置いているので、この制度の歯止めになる力を持っています。」

平成26年8月5日執筆了>

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