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労務管理情報(3)


猪(い)〜年(とし)社労士@小野寺(おやじ)の労務管理情報
第3回 働き方改革で注目を集める勤務間インターバル/テレワークの実務対応(その2)


企業が導入するに当たっての法的問題点及び実務上の留意点  

  • 勤務間インターバルを導入するための手続きとしては、まず、インターバルの期間としてどのくらいの時間を設定するのか、就業制限を伴うものか、就業制限までは伴わないものにするのか、を決める必要があ
    ります。
  • また、実例等を見ると、具体的な手法としては、「始業時刻と終業時刻の双方をスライドさせる方法」と「始業時刻のみを繰り下げる方法」の2つに分かれるようです。

始業時刻と終業時刻の双方をスライドさせる方法  

  • 就業制限としての勤務間インターバルを設ける場合には、前日の残業時間如何では、翌日の就業時刻を変更する必要が生じます。これに対応する最も簡便な方法としては、前回記載したKDDIのように、始業時間をスライドさせた場合には、それに応じて終業時間をスライドさせる方法があります。
    この場合には、始業時刻と終業時刻の双方をスライドさせるだけですから、就業規則上に、勤務間インターバル制度についての特段の定めが存在しなくても、以下のような一般的な定めがあれば、法的問題はありません。

    (始業・終業時間の変更)
    第0条 業務上必要があるときは、所定労働時間を超えない範囲内で、始業及び終業時刻を変更することができる。

  • 仮に、上記のような定めがない場合には、始業時刻と終業時刻の双方のスライドが認められないことになって、所定の終業時刻以降の勤務について就労義務を課すことができなくなります。
  • 次に気を付けなければならないことは、労基法第34条で規定する「休憩時間」の問題です。

    休憩時間の付与義務
    労働時間が6時間超の場合 少なくとも45分
    労働時間が8時間超の場合 少なくとも1時間
    休憩時間の一斉付与の原則

  • ただし、8時間程度のインターバルであっても、前日の残業が早朝近い時間までの残業であった場合には、翌日の始業時刻が所定の始業時刻から大幅にスライドされ、その結果、翌日の終業時刻も大幅にスライドさせざるを得ないことになります。
    このように、始業時刻と終業時刻の双方を大幅にスライドするような扱いをした場合には、翌々日以降の各営業日の始業時刻・終業時刻全てに影響してしまうおそれがあります。
  • したがって、こうした就業時刻の不規則化は好ましいことではないので、翌日の終業時刻をスライドさせるにしても、スライドの限度を設けるなど(例えば、翌日の終業時刻について午前0時以降のスライドを認めないなど)の対応が必要になるものと解されます。
    なお、この場合において、繰り下げられた勤務時間が深夜割増の対象となる時間にわたる場合には、割増賃金の支払いが必要になることは当然です。

始業時刻のみを繰り下げる方法  

  • 労働組合等が強く主張している方法であり、始業時刻のみをスライドさせ、終業時刻は変更しないという方法です。
    この場合には、所定の始業時刻からインターバルによってスライドされた始業時刻までの間については、会社が一方的に就労義務の一部を免除しているだけとすれば、特段、就業規則上の根拠は不要となります。
  • また、単に会社が、翌日の就労義務の一部を免除しているだけであるとすれば、所定の終業時刻まで働けば所定労働時間の労働をしたものとして扱われ、賃金の控除はなされないことになります。
    ただし、会社が就労義務の一部を一方的に免除しているのではなく、会社と労働者が就労しないことを合意しただけであるとすれば、就労しない分の給与の扱いについて定めておく必要があります。
  • このような「始業時刻のみを繰り下げる方法」を採用し、賃金の控除をしない場合には、残業の結果、翌日の所定労働時間が短縮されることがあり得るわけですが、翌日の所定労働時間が短縮されるに至る
    ようなレベルの長時間残業を行った場合には、そのレベルに至った段階での残業は、トータルで見ると、総労働量は変わらない(前日に残業を行った分だけ翌日の所定労働時間が短縮される)にもかかわらず、労働者からすると前日の時間外手当はもらえることとなるため、必要性に乏しい残業、いわばダラダラ残業が発生する可能性があります。
    したがって、残業については会社側の事前の許可を要するなどの厳格な手続きを前提とすべきものと解されます。

フレックスタイム制との関係  

  • フレックスタイム制(労基法32条の3)は、1か月以内の一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者はその総労働時間の範囲で各労働日の労働時間を自分で決めることができる制度です。
    一般的なフレックスタイム制においては、1日の労働時間帯を、その時間帯の中であれば、いつ出社又は退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)と必ず在社しているべき時間帯(コアタイム)に分けていますが、コアタイムを設けないこともできます。
  • コアタイムがないフレックスタイム制の場合には、労働者は自分の労働時間を自由に設定できるので、労働者は自らの選択でインターバルを置いて勤務することができることから、始業時刻や終業時刻をス
    ライドさせるにあたって就業規則上の根拠は不要となります。そうした観点からすれば、勤務間インターバルと親和性がある制度といえます。
  • このように、労働者が自らの選択でインターバルを置いて勤務することができる以上、あえて勤務間インターバルの定めを置く必要がないようにも思われますが、繁忙期など休みたくても休むことを言いだせないような場合もあり得ますから、フレックスタイム制であっても勤務間インターバル自体を定めておくことは意味があるものと解されます。
  • コアタイムがあるフレックスタイム制の場合に、勤務間インターバルを置いた結果として、翌日の業務開始時刻がスライドされ、それがコアタイムにまで及んだ場合には、コアタイムの開始時刻からインターバルの結果スライドされた業務開始時刻までの間については、会社が就労義務の一部を免除したものと解し、清算期間における総実労働時間の算定においては、当該時間分については勤務がなされたものとして取り扱うことになると考えられます。

裁量労働制との関係  

  • 裁量労働制(労基法38条の3第1項、38条の4第1項)は、業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要のある一定の業務に携わる労働者について、労働時間の計算を実労働時間によらず、みなし時間によって行うことを認める制度です。
  • 裁量労働制の下では、始業・終業時刻を含めた労働時間の配分について労働者の裁量によって決定することになります。
    そのため、始業時刻や終業時刻をスライドするに当たって就業規則上の根拠は不要となります。したがって、あえて勤務間インターバルの定めを置かなくてもよいようにも思われますが、フレックスタイム制の場合と同様に、裁量労働であっても勤務間インターバル自体を定めておくことには意味があるものと解されます。

制度導入に際しての社内規定等の例  

  • 勤務間インターバル制度を導入するに当たって、必ずしもこうした制度を前提とするような就業規則上の手当までは不要と思われますが、制度として導入する以上、就業規則等に明示しておくことが望ましいと考えます。
    そこで、簡潔な規定例を紹介します。

就業規則の規定例

始業時刻と終業時刻の双方をスライドさせる場合  

(勤務間インターバル制度)
第0条 時間外労働の終了時点より翌日の始業時刻までの間、連続して0時間の休息時間を設ける。
2 時間外労働の終了時点より連続0時間の休息時間が翌日の始業時刻にかかる場合は、翌日の始業時刻を休息時間が終了するまで遅らせるものとし、終業時刻についても始業時刻を遅らせた時間だけ遅らせるものとする。

始業時刻のみを繰り下げる場合(賃金減額なし)  

(勤務間インターバル制度)
第0条 時間外労働の終了時点より翌日の始業時刻までの間、連続して0時間の休息時間を設ける。
2 時間外労働の終了時点より連続0時間の休息時間が翌日の始業時刻にかかる場合は、その休息時間が経過するまでの労働は免除する。その場合の時間は労働したものとみなし、賃金は減額しない。

  • 上記の文例では、「労働を免除する」としていますが、会社が一方的に就労義務を免除したのか、会社と労働者が就労義務の免除を合意したのかどうかが必ずしも明確ではないため、賃金の扱いについても触れています。

始業時刻のみを繰り下げる場合(賃金減額あり)  

(勤務間インターバル制度)
第0条 時間外労働の終了時点より翌日の始業時刻までの間、連続して0時間の休息時間を設ける。
2 時間外労働の終了時点より連続0時間の休息時間が翌日の始業時刻にかかる場合は、その休息時間が経過するまでの労働は免除するが、不就労時間に応じて賃金を減額する。

  • この場合、別途、時間外手当が発生しているからといって、不就労時間に応じての賃金減額まで実施するのは、労働者側の抵抗が強いように思われます。

従業員の義務とする規定例  

(勤務間インターバル制度)
第0条 従業員は、自らの部下について、時間外労働の終了時点より翌日の始業時刻までの間、連続して0時間の休息時間を設けなければ勤務させてはならない。

  • 上記のうち最初から3つの文例によると、誰が勤務間インターバルを遵守すべき義務を負うのかが不明であるため、上司において部下の勤務間インターバルを確保すべき義務と定めることが考えられます。
    この場合には、その点についての義務違反に対して、懲戒処分等が可能となります。

就業規則以外の規定の場合

  • 例えば、就業制限まで至らないような勤務間インターバル(任意)の場合には、36協定において、「事業所は、勤務終了時から次の勤務を開始するまでの間に、0時間の休息時間を確保するように努めるも
    のとする。」という定めを設けるなどの例や、上記KDDIのように安全管理規程に定めを置く例などがあります。

企業の実務担当者が、今後留意すべき点  

  • 就業制限としての勤務間インターバルを採用した場合、労働者としては強制的に休息をとらざるを得ないことになるため、長時間労働に起因して生じる労働者の健康上の問題を解消するための一助になることが期待されます。
  • 全ての企業に一律に勤務間インターバルを導入することについては、各会社の実態にそぐわないという懸念も示されているところであり、特にグローバルビジネスに対応する企業においては、日本時間での法的な制限はビジネス展開に支障をもたらし、国際競争力を削ぐことになりかねないのではとの声もあります。
  • また、勤務間インターバルは、労働者の労務提供をとどまらせるものであることから、業務効率の改善や業務量の適正化、適正な人員の確保といった面からの改善が同時に行われなければ、他の労働者の負担増加をもたらす結果を招く可能性もあると考えられます。
  • 以上からも、各企業においては、勤務間インターバル制度を導入するに際しては、自社の実態に最も適した形で、他の改善策も合わせて制度を設計する必要があります。
    とりあえず、8〜9時間程度のインターバルを設定し、インターバル期間のさらなる延長の可否は、施行状況を見ながら検討するというのが、無難な取り組み方であると思います。
     以下、その3につづく

 

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